築50年、人生が半周したこの場所に、文化的処方を届ける。男山団地「だんだんテラス」運営者インタビュー

2025年秋、京都府八幡市に位置する男山団地にお住まいの方を対象に、プロジェクト「団地でめぐるつながりとケアのかたち」を開催しました。「じぶんをひらくウェルビーイングの2ステップ」という副題の通り、2部構成のプログラムで、心と体をととのえながら、年代の垣根を超えた交流の場となりました。

mottoと共に、このプロジェクトを企画してくださったのが、男山団地のコミュニティ「だんだんテラス」の運営支援に携わる、⼀般社団法⼈カンデの辻村 修太郎さんと藤本 恭輔さんです。

本記事では、おふたりから見た団地研究と男山団地の魅力やコミュニティ運営に携わる姿勢、そして、イベントを通じての新しい発見とこれからの団地への思いをお聞きしました。


イベントの様子は、開催レポートをご覧ください。

東京藝大「I LOVE YOU」プロジェクト「団地でめぐるつながりとケアのかたち」開催レポート①

東京藝大「I LOVE YOU」プロジェクト「団地でめぐるつながりとケアのかたち」開催レポート②

 

薄れゆく関係の中で、声を聞き・つながりをつくる拠点を運営

——辻村さん、藤本さんのご活動について教えてください。
辻村さん:関⻄⼤学⼤学院を卒業し、10年間、男山団地の地域コーディネーターを務めていました。2025年に合同会社ヤットアーキテクツを設立し、建築設計事務所を経営しています。

藤本さん:私は関西大学4年のときから、辻村さんなどが続けてこられた研究室プロジェクトである「関⻄⼤学団地再編プロジェクト」に参画し、大学院を卒業すると共に、辻村さんから地域コーディネーターの役目を引き継ぎました。

——男山団地歴史とおふたりの関わりについて教えてください。
辻村さん:戦後から高度経済成長期にあたる1960年代から1970年代、人口増加や空襲で住宅が大量に焼失していたことの対策として、国が公営住宅や公団住宅の建設をすすめました。当時建てられた全国の団地において、現在、築50年以上を経たことでの老朽化・高齢化が問題となっています。建物自体が古くなると共に、そこに住む人々が抱える課題というのも変化しています。大部分が賃貸なので、人の入れ替わりがあり、地域のつながりは薄れているのも、課題のひとつです。


2012年、関⻄⼤学環境都市工学部建築学科が、「関西大学団地再編プロジェクト」を発起し、京都府八幡市の男山団地をフィールドに研究活動を行ってきました。建物を使い続けるのか・使い続けるとしてどう活用をしていくのか——建築学科の学生として、建築物へ焦点を当てながら、同時に、ワークショップなどを企画し、住んでいる人の意見や困りごとに耳を傾ける、そんな研究活動を続けてきました。

2015年11月に、住民へのアンケートで寄せられた「地域に気軽に集まれる場所が欲しい」という声に応えるため開設されたのが、コミュニティ拠点「だんだんテラス」です。困っている人・地域とのつながりが薄い人が気軽につながれる居場所、そして、今後の団地のあり方を継続的に考えていく場所。そのふたつの性質が重なる場所として設置されました。

毎日場所を開き、人が立ち寄り、声を聞き・集めるなかで、「こういうことがしたいんだけど……」とやりたいことはあるけれど、一歩踏み出せない人がたくさんいることを知りました。そこで、毎月1回、八幡市と、男山団地を運営するUR都市機構と共催で「やってみよう会議」を開催し、住民のみなさんの声を実現させてきました。

藤本さん:最近だと、地域コーディネーターとしてサークルの立ち上げ支援を行いました。全国の団地と同じく、男山団地でも、現在、外国籍住民が増加しています。技能実習生として日本へやってきた20代前後の単身者が、シェアハウスとして団地を活用しているんです。そういった背景から、「外国人の居場所づくりをしたい」、「ベリーダンスのサークルを立ち上げたい」という希望があり、発起人の方と一緒に、補助金活用やルールづくりを考えるなどをサポートしました。
最近ではサークル同士が連携した活動も生まれてきており、少しずつ発展してきています。

辻村さん:団地研究という入り口から関わりを始めたので、男山団地を、「研究課題が凝縮された興味深い空間」として捉えていました。一方で、新しい団地像を実現できる魅力も感じていたんです。団地でありながら密度が低く、広場や集会所が点在しており、植栽が豊かで暮らしの中で自然を感じることができます。建物自体が古くなることは止められませんが、必ずしも、環境自体が劣化するわけではないんだと教わりました。そういった「団地だからこその素敵な部分」というのを、次の世代へ継承させたいという思いで関わってきました。

藤本さん:私も元々は団地に愛着があったわけではなく、学生としてこのプロジェクトへ参画しました。住むことで、だんだんと、場所としての魅力に気づいていきましたね。賃貸団地4600戸、分譲団地1400戸の大規模団地なんですけど、南北に歩行者用道路が2キロ伸びており、地形としてわかりやすいんです。他の団地って、迷路のように入り組んでいることが多いように思います。50年間、ゆっくりと逞しく育った木々が茂っていて、公園もあって、一人の住人としても「いい住空間だな」と思いながら暮らしています。

これまでのつながりを活かし、孤立している人へアプローチ

——イベントがだんだんテラスで開催された経緯を教えてください。
辻村さん:mottoさんのメンバーが、ふらっと、だんだんテラスに足を運んでくれたのが出会いでした。「東京から来た」「京都でアートプロジェクトを開催する場所を探している」と聞き、びっくりしたんですけど、被災地でこどもたちとアートを通じてコミュニケーションをとる活動など紹介してもらい、私も学生の時からだんだんテラスの運営に携わっていたので、感心と共感を覚えました。

男山団地周辺には小学校が3校あり、住民であるこどもたちもだんだんテラスには集まります。なので、こどもたちに向けたイベントを開催してくれたら嬉しいなと思ったんです。京都で実施される活動を手伝うようになり、今回のイベントの開催にもつながりました。

——イベントは2部構成で、まずプログラム1として、「自身の健康を整える」が、大人向けに開催されました。参加者を募るための工夫はありましたか
辻村さん:今回、mottoさんから、「文化的処方の取り組みとして、イベントを開催したい」とお声がけいただきました。孤独・孤立に陥っている方の健康リスクが、近年、研究で明らかになっており、喫煙や飲酒以上の悪影響があるそうですね。アートや文化活動への参加機会を創出し、つながりを生み出すことで孤独・孤立対策とする社会的な取り組みが、文化的処方だと理解しています。

ぜひ協力したいなと思いながらも「孤立している人をどうやって、開かれた場に呼べるんだろう」と、まず率直に迷いました。そこで、すでに男山団地で、孤独・孤立対策をテーマに活動している団体のコーディネーターさんに相談をしました。私たちよりも、住民の孤独・孤立の問題について把握されていらっしゃるので、イベントのターゲットとなる方の参加が望めるのではと考えたんです。これまで築いてきたコミュニティの力が、今回のイベント集客に役立ちました。

結果として、20代から80代の方まで多様な世代の方に参加していただきました。改めて、自分たちがつくったコミュニティが、幅広い方たちの居場所として機能していることの実感も得られ、嬉しかったです。

——イベント中、印象深かったシーンはありましたか。
藤本さん:理学療法士・山口諒太郎さんによる「体幹」をテーマにした体操からはじまり、それぞれの健康状態に合わせて無理なく体をあたためてもらいました。そこではやはり、わかりやすく各年代ごとの体の動きの違いが見て取れましたね。

後半の、フェルトや毛糸、モールなどの素材を自由に組み合わせて「ピクニックに行くなら持っていきたいお弁当」をつくる工作ワークショップも、世代ごとの違いがありました。若い方が作ったお弁当は栄養素が偏っていたり、高齢の方のお弁当は茶色い食材が多かったり……互いのお弁当を覗き合って、笑顔で感想を伝え合う空間は、アートの力だからこそ生まれたものだと感じていました。

辻村さん:20代の方と50代の方が話をする中で、実は同じ中学校の卒業生であることが判明して盛り上がっていたのを覚えていますね。日々、住民の方々とコミュニケーションを重ねていますが、それぞれが場を共にし、会話をすることで、新しい一面に出会い直すのは新鮮な体験でした。

ワークショップの工作が、複雑な作業がいらないものだったことが作用したんだと思います。手を動かしながら、会話も楽しめる余裕がありました。都市開発など、建築分野でのワークショップでは、主軸に議題があり、それを中心に議論を発展させますが、mottoさんが企画するアートに親しむワークショップだと、その場で自由に広がっていく会話が心身にいい影響を与えてくれるんだと感じています。

 

こどもの目を通して、街づくりを捉え直す

——プログラム2では、「地域でこどもたちと交流しよう」と題し、プログラム1の参加者がサポーターとして活躍するこども向けのワークショップが開催されました。

辻村さん:今回のイベントは2部制であると告知していたため、参加者のみなさんは、ものづくりやこどもへのサポートに興味関心が高い方たちだったのかもしれません。私たちが想像していた以上に、自然と、積極的に、大人からこどもへの手助けが行われていましたね。

藤本さん:だんだんテラスは幅広い年代の方にご利用いただいていますが、こどもと高齢者の方など、世代を超えた交流が多く生まれているわけではありません。なので、プログラム2で、こどもと大人が交わる機会が創出できたのは、斬新な試みでした。

参加したのは、学童保育に通っているこどもたちだったので、今後、ここでできた顔見知りの関係が、日常での見守りにつながり、より、こどもたちが安心して暮らせる団地になるのではと期待しています。

——多世代が一堂に会する空間で、運営スタッフとして工夫した点があれば教えてください。

辻村さん:空間の使い方は意識しましたね。こどもたちが慣れ親しんだ場所で生き生きと動きつつ、そこにいつもは接することがない大人が存在することで特別感がプラスされてワクワクが生まれるのでは……と考え、プログラム2は、学童保育の教室で開催しました。最初は、大人たちは離れた位置に座ってもらうことで、緊張感を和らげようともしました。プログラムが進むなかで、徐々に距離が近づいていく、段階を踏んだ関係づくりを意識しました。

藤本さん:ひとつの大きなグループを作るのではなく、小さなグループが複数、教室内に発生していました。年代・人によって、体力の余り具合や、社交への得意・不得意は違っています。こどもとの関わりが苦手な方は、少人数のゆったりと交流できるグループを選んで参加できていて、全員が、自分なりの無理のない関わり方を選択できたのはよかったですね。

——ワークショップでは、mottoファシリテートのもと、「自分の住みたい街をつくろう」をテーマに、こどもたちがカラー工作用紙を材料に、多種多様の建物を生み出していました。

辻村さん:私たちは建築分野で活動していますし、団地研究をしてきましたから、「こどもたちがどんな街をデザインするんだろう」と楽しみでしたね。自分が働きたい場所をつくっている子たちが多かったです。建物ではなく、車とか、街を彩る要素にこだわっている子もいたのが印象的でしたね。

藤本さん:こどもにとっての街という空間の受け取り方が見えて面白かったですよね。パトカーを、素材を組み合わせて忠実に再現しようとしたり、ハンバーガーショップをつくっていた子は、テーブルの上のトレーやポテトまで細かく表現していたり……。

独創的なペットショップをつくっている子もいましたね。振り返ると、mottoさんの、手軽にSDGsを実施できるイベント「古着でなにつくろ!」をだんだんテラスで開催した際にも参加してくれていたこどもだったんです。その際も、自分で図面を描き、好きなものを詰め込んで、試行錯誤していた子だったので、その発想力が街に展開していく様子を見れて面白かったです。

辻村さん:大人たちが、こぞって、ペットショップに来訪するペットを作り出してましたね(笑)。こどもたちの意欲に引っ張られて、大人の方も、創作欲が膨らんでいました。そういう意図はなかったですし、「こういうふうに動いてくださいね」とお願いをしていたわけでもなかったのですが、自然と、大人も手が動き出して。

  

団地の中で多様なライフスタイルを実現し、文化を育む手助けを

——これまでコミュニティづくりに携わってこられたおふたりにとって、新しい発見はありましたか。

辻村さん:イベントが終了してから、だんだんテラスで、ワークショップで生まれた作品の展示をしました。プログラム2はこどもだけの参加だったので、その親御さんにも、ぜひ作品を見て欲しかったです。

藤本さん:でも、普段、働き世代の親御さんがだんだんテラスをこどもと一緒に訪れることは少ないので、「案内しても、見に来てもらえないかもなあ」と話していて……。

辻村さん:嬉しいことに、予想に反して、親御さんが来てくれたこともありましたよね。また、従兄弟のお兄ちゃんを連れてきてくれた兄妹がいて。初日に展示の準備をしているタイミングでの来訪だったので、「朝からはりきって、お兄ちゃんを呼んだのかなあ」なんて想像して……「自分がつくったものを誰かに見せたい!」という思いが、こどもたちに強くあるんだなあと、和やかな気持ちになりましたね。

藤本さん:世代を問わず楽しめるアートの力を感じましたね。だんだんテラスのサークル活動の一環で、外国人のこども向けの日本語教室が開催されているんです。そのほか、「だんだん手作り市」という団体さんもいて、その方に、「mottoさんとこんな活動をして、楽しかったんですよ」と感想をシェアしたところ、今度、外国人のこども向けにものづくりワークショップを企画してくださることになりました。アートが、世代だけではなく、言語の壁も超えて、サークル同士の連携の助けになっており、嬉しいです。


——次なる発展がすでに芽吹いているんですね。今後、男山団地やだんだんテラスに、期待している変化を聞かせてください。
藤本さん:だんだんテラスでは、住民主体のサークル活動が10ほど活動しています。その活動の主体も、年を追うごとに高齢化していて……。今回の活動は、若い世代が中心となって推進できて、私自身、同世代との協働を楽しみながら運営に携われました。若い人たちが地域のために活動する機会を増やしたい、また、そういう意欲を抱えてる人たちを発掘したい。そう思いました。

また、こどもたちに街づくりをテーマにワークショップに参加してもらって、この時の楽しさをきっかけに、10年後、20年後、その子たちが大人になってから、建築に興味を持ってくれたら嬉しいなあと、個人的には願っています。今後も、ワークショップが開催できたなら、「なんか、建築っておもしろそう!」って感じてくれるこどもたちが増えるんじゃないかなって期待しているので、またぜひやりたいです。

辻村さん:mottoさんにもご協力いただきながら、文化的処方の試みの種をどんどん植えていきたいですね。また、我々が、男山団地で培ってきたノウハウを、別の地域・団地へも展開していきたいです。

だんだんテラスは、場所ありきで、土地に根付き、その土地を囲む人々と育んできたものです。次のステップとして、だんだんテラスで得られたものを、まだ出会っていない地域・人々へも還元していきたいです。

——コミュニティづくりを通じて、団地と向き合っているおふたりが、今後、日本の団地が豊かに発展していくために大切だと思われていることを教えてください。

藤本さん:団地って、一見して、同じような建物が等間隔に並んでおり、変わり映えしない景色が広がっているように見えるかもしれません。でも、目を凝らしてみると、住戸によって部屋から見える景色や間取りが違って、さまざまな顔を楽しめるんです。周囲に目を向ければ、商店街や学校など、生活に欠かせない要素に囲まれ、生活が支えられています。そういうものを活かし、同じ団地で暮らしていながらも、一人ひとりが実現したいライフスタイルを選択できるような手助けが大事なんじゃないでしょうか。その手助けというのは、住居リノベーションといった建築的なハード面のアプローチも、コミュニティというソフト面のサポートも合わせて提供することが理想だと思います。そして、実現された多様なライフスタイルの発信も、積極的に携わりたいです。



辻村さん:約50年前、日本各地の山を切り拓き、建てられた団地の中で、数多くの人々の時間が積み重ねられました。30代で働くために移り住んだ人にとっては終の住処となり、ここで生まれた人は次の世代を産み・バトンを渡し——団地での人生が半周するタイミングを、迎える時節が今なんだと捉えています。

団地だけではなく、集落など人が集う地域の研究もしてきました。団地よりもさらに長い何百年と続く住環境に比べると、実は団地って、まだまだ新しいライフスタイルの土壌だと思うんです。なので、これからの文化を育てていく環境づくりが大事なのではないでしょうか。

男山団地は、それが実現できるフィールドだと期待しています。隣接する樟葉は都市的な生活が栄え、一方で八幡は農村的な雰囲気を残しています。さらに、石清水八幡宮という文化財も鎮座し、そこに、外国人がどんどん移り住む……男山団地だからこその新しい文化が育まれている予感がありますね。それを大事にしながら、内外へと発信する手助けをしていきたいです。



インタビュー・執筆 野里のどか

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